高瀬瑞希(人物評価E・シナリオ評価D)

 このゲームのヒロインで主人公の「Like幼なじみ」。このライクというのは、彼女との仲が高校生から始まったものであるからだ。それ以来、彼女とは友達関係となっている。
 さて、ヒロインというのに、この評価はずいぶんひどいと思われる方はたくさんいることだろう。しかし、このゲームに対してぼくが納得できない要素は、すべて彼女に原因があるのだ。
 主人公は「こみパ」を体験して、漫画を描くことを決意するのだが、彼女はそうすれば「おたく」になってしまうと反発する。彼女は漫画なんて中学三年で卒業して、漫画を描くなんて「子供だまし」だと思っている。それよりも、美術の才能をもっと生かした方がいい、と彼女はさとすわけだ。

 ここで、どう考えてもおかしいと思うのは「漫画愛好家」と「おたく」を混同していることである。これは、このゲーム全体でも言えることなのだが、大学に入って漫画を読んでいれば「おたく」と定義されそうな勢いなのは、おかしいのではなかろうか。こういう女性は「ゴッホ」を引用すれば「天才は不遇よね。でも、その作品はずっと生き続ける」としか言えない人種である。プライドがまったく見られない。
 だいたい、中学三年で漫画を卒業した人なんているのだろうか。ぼくの長兄は一流大学に入ったが、そのとき『ゴルゴ13』や『みどりのマキバオー』の単行本を持っていた。文学クラブに入っている人全員は漫画に何かしらの影響を受けているだろう。たとえ、今は熱心に読んでいないにしろ、「卒業」という言葉ではくくりきれないものが染み込んでいるはずだ。しかも、彼女は高校時代テニス部に入部していたらしい。テニス部となれば、テニス漫画の話題ぐらいはでてくるはずである。そんな友人を「ああ、あいつもおたくだったか」と開き直るのは、ちょっと酷ではないだろうか。どうも、彼女は高校時代から友達がいなさそうな気がする。

 こう書くと、瑞希ファンは反発するだろう。「このような事態に陥ったのは九品仏大志の影響である。もし『おたく界の帝王』を自称する大志が主人公の側にいなければ、彼女もそのような誤解をしなかったであろう」。それはもっともだ。しかし、それ以降の瑞希の行動もぼくには不可解である。ちなみに、これはぼくのプレイ方法の要因もあるので、それも説明する。

 ぼくがプレイした主人公は、まず「創作」の「歴史」ジャンルで、「城をつくった男」とか「龍の軍団」とかシブい漫画を描いていた。しばらくして、瑞希は「もっとわかりやすい漫画の方がいいかな?」と感想を述べる。そこで、主人公は「スポコン」を描こうとした。と、まあ、ここまではいい。問題はその後に、大庭詠美とユニットを組んだことにある。ここでいう、ユニットとは、漫画を共作することではなく「こみパ」にて同じ机で漫画を売る関係ということだ。後述するが、大庭詠美という同人漫画家はとにかく売れることだけしか能がなく、パートナーとなった主人公にジャンル選択の自由を奪う。そうして描いたのが、「ゲーム」の「ギャルゲー」なる分野の「おしおきしちゃうぞ☆」というタイトルの漫画である。ぼくは詠美を心から恨んだ。ああ、せっかく硬派の同人漫画家を目指していたのに、これですべてが終わってしまった。瑞希はこの漫画を読んで愕然とするに違いない。今までの主人公は、自分の美術の才能を用いて、自分の趣味を物語として読者に示していた。ところが、そんな信念はどこかに行ってしまった。いきなり「おしおきしちゃうぞ☆」である。まさに、これぞ「おたく」としか言いようがない。少なくとも、ぼくには「おしおきしちゃうぞ☆」という漫画を売る勇気はない。それを真剣に描いたとはいえ、テーマがあったにしろ、所詮「おしおきしちゃうぞ☆」でしかない。
 ところが、である。瑞希はその漫画を快く受け入れたばかりか、その漫画を批判する客に対して「ちゃんとこの漫画を読みなさいよ!」と叫ぶようになる。何てこったい、とぼくは思った。おまけに売上は二千部完売となるわ、プロデビューを雑誌編集長に誘われるわ、バラ色の日々がぼくを待っていたのである。まあ、そういう漫画を買う客はどうでもいい。「おしおきしちゃうぞ☆」というタイトルは刺激的であるし、おまけにイラストも良いとなれば、ついでに買う人は多いだろう。それよりも問題は「こみパの唯一の良心」とぼくが信じていた瑞希である。結局のところ、彼女も作品が売れればそれでいいとしか考えていないのだ。いろいろ話が込み合うと「いや、あたしは漫画のことは詳しく知らないから」とごまかす。金魚のフンみたいに主人公についてまわるだけである。時には心血注いで書いて印刷屋に持っていこうとした原稿を取り上げて破こうとしたり、突然「カードマスターピーチ」のコスプレをやり出したり、プロデビューが決まったとなると「もう、あたしからは遠い人になっちゃうな」なんてことを言う。そんな暇があったら、もうちょっと主人公のやり方に口を出すべきではないのだろうか。手塚治虫なり宮崎駿なり、多くの人が評価している漫画を読み、漫画という分野の可能性を主人公に伝えようとするのが、愛する女の努力ではないのか。彼女はそんなことをせずに、ヒステリックに言いなじったり、妙な遠慮をしたり、ささやかな抵抗をするだけで、まったく成長しない。最悪である。そんな間に、主人公は詠美に指定されるがままに「ちゅきちゅきぱわー」とか「ズバリ犯人はオレだ!」なんて下らなさそうな漫画を量産しているのだ。ちなみに、このことについては詠美の項目で詳しく述べるが、詠美シナリオでは、そんな売れることしか考えない詠美を主人公は諌めることができるのだが、瑞希シナリオではそのままである。「エルフ耳革命」という漫画を描いても、瑞希は「たくさんの人が読んでくれるから」と高い評価を与える。頭の中はカラッポなのだろう。
 最後に主人公はプロデビューをするのだが、瑞希とも仲直りして、公園で抱き合う。そして、ハッピーエンドかと思いきや、所詮18禁ゲーム。それから理解不可能で文体滅裂な野外プレイに突入する。「To Heart」では、ヒロインのあかりのセックス・シーンにつながるまでには「青春の焦燥」と言えるべき葛藤があったが、このシナリオでは全くそれがない。突然主人公は「おい、このままやめていいんだぜ」と女の子をおどすような性格に変貌し、女の子は「ううん、お願い、続けて」と従順に答えるだけである。まったく、製作者側の思い入れがまったく感じられない。
 結局、彼女の性格はただのストーカーである。これは「芸術家はこのような女を遠ざけなくてはならない」という教訓以外に意味をなさないのではないか。

大庭詠美(人物評価A・シナリオ評価A)

 彼女を一言で表現すると「Likeあさぴな」となる。このあさぴなというのは「ときめきメモリアル」というゲームに出てくる朝比奈夕子という女の子のことで、ぼくは彼女が歯をむきだして怒っている表情が一番好きである。彼女はその朝比奈夕子と同じ系統に属する。ちなみに、彼女も女子高生である。

 初めて主人公が「こみパ」に行ったときに、衝撃を受けたのが彼女である。彼女は「同人界の女帝」と自称し、ファンも多い。主人公は彼女のスケッチブックに瞬時に漫画を描く技術力に衝撃を受け、「こみパ」での同人活動に意義を感じるのだから、才能あふれる主人公を「こみパ」へ向かわせたのは彼女が要因である。実際、主人公は「こみパ」での目標を彼女に定める。
 ところで、主人公は漫画を描き始めてから一ヶ月で百部完売するような天才漫画青年であるから、詠美はひそかにライバル心を抱く。彼女は何事も「一番」でいなければならない性格である一方で、自分と同等の実力を持つ同人漫画家とユニットを組みたいとも思っていた。こうして、彼女は主人公に接近する。ところが、猪名川由宇という関西から東京に遠征している同人漫画家と、彼女は犬猿の仲で、二人で主人公争奪戦を行う。その結果(詠美シナリオで進むなら)押しの強さで主人公をゲットする。
 こうして、主人公は詠美の同人漫画を初めて読むことになるのだが(それまで、詠美は売れっ子だからすぐに完売するので、主人公は読むことができなかったのである)、その漫画を読んでショックを覚える。彼女の漫画は全てマニュアル通りに計算されつくしていて、奥が浅く、しかも全体から他人を蔑むような冷淡さしか感じなかったからだ。しかし、実際彼女の漫画は多くのファンを得ているし、主人公は「こみパ」に参加してから、まだ数ヶ月しかたっていない。だから、彼女の指定した漫画を主人公は命令どおり描き続ける日々を過ごす。
 そんなもやもやとした同人活動を続ける中で、こみパスタッフの牧村南女史から、詠美と由宇が以前は同じユニットを組んでいたことを知る。実は詠美の師匠は由宇であったのだ。今では犬猿の仲となった二人。主人公は由宇にそのことをたずねると「昔はいい漫画を描いてたのに、今は売れることしか考えてない」と関西弁で答える。さらに、主人公は牧村南女史から詠美の最初の同人誌を手に入れ、それを読む。その漫画は荒削りだが、ひしひしと「漫画が好き」という詠美の気持ちが感じられた。主人公はこんな漫画をもう一度描いてみろと彼女に薦めるが、彼女は「売れなきゃ意味がない」と突っぱねる。プライベートな関係で、二人の仲は発展したのだが、漫画となると詠美の高いプライドは、主人公でも近寄ることができなかったのだ。あげくのはてに二人は喧嘩して、「こみパ」の売上数を競うようになる。そこで、詠美が取ったのは量産体制だった。彼女は一ヶ月で十冊もの新刊を描いたのだ。主人公は一冊の本を丁寧に描くという戦法を取ったために、結局勝負に負けてしまう。ところが、勝負にこだわるあまり、作品の質を落とした彼女は客に酷評を受けて、冷たい仕打ちを受ける。そんな詠美に主人公は「もう一度、やり直してみないか」と慰めようとする。

 この詠美という女子高生、漫画以外ではまったく取柄がない。友達もいないし、勉強もできない。「こみパ」という会場では女帝を振舞っているが、それ以外の彼女は惨めなものである。しかし、彼女には瑞希と比べものにならないくらい、強い信念がある。つまり、「あたしには漫画しかない」である。こういう理屈抜きで感覚だけで生きている天才少女というシチュエーションにぼくは非常に弱い。

 ちなみに、詠美のシナリオは二回プレイしていて、二回目は二月の「こみパ」の後で「友達だろ、俺たち」という選択肢を選んだ。ちなみに、もう一方の「俺、詠美のこと好きだから」を選ぶと、セックス・シーンに突入する。そこで、セックス・シーンなしを選ぶと、それからの展開はハッピーエンドよりも面白かった。どうやら、このゲームは女の子とセックスしないほうがシナリオは充実しているし、一貫性がある。とはいえ、ぼくは男であるし「闘いの代償、愛の報酬」というものを求めているわけだ。18禁恋愛シュミレーションゲームもなかなか因果な代物である。まあ、詠美シナリオに関しては、セックスしても一貫性があるし、その後の展開もいい。瑞希でサボった情熱を彼女に捧げた製作者の意思を感じる。

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