第三章・さざなみ寮に住むために必要なこと


 さて、さざなみ寮に住むために絶対必要なこと。それは一体なんでしょうか。

 『とらいあんぐるハート2』本編中の時代と、十年後の住人たちの顔ぶれ。何人かは十年の年月を経た今となってもさざなみ寮に住んでいます。
 オーナーである槇原愛、管理人を続けている槇原耕介。この二人は脇においておきましょう。この二人以外に残っているのは、陣内美緒・仁科知佳・神咲薫・十六夜。本編中の言葉を借りるなら「特別系」の顔ぶれです。はっきり言ってしまうと、彼女たちはここの居心地が良いからここにいる、というよりも他に行く場所がないのです。つまりそのような顔ぶれと同じ屋根の下に住むためには、すなわち彼女たちを受け入れることが絶対必要な条件となるわけです。

 もちろん結果としてさざなみ寮に住んでいるということは、麗ちゃんは受け入れたということです。すなわち、IQ400で学校のトップエリートという極端な設定から我々凡人が連想しがちな「既存の知識に縛られて、理解不能な現実を認めたがらない」というタイプの人間ではないことが明らかとなるわけです。

 ここにも映画の影響を指摘することは容易です。映画に限らず、物語とは突飛な現実を「はいそうですか」と認識して、その上で物事を構築していくことがそれを楽しむのに必要な態度です(分かりづらい言い方ですね、つまりこういうことです。『E.T.』という映画を楽しむには、宇宙人がどこから来てどんな生命体であるかを考えるのでなく、それがまず「いる」ということを前提条件として認めないといけないということです)。
 つまり映画を受け入れることに慣れている彼女は、現実の世界でも美緒や知佳のような人間を受け入れることが全く抵抗なく行えた……

 果たしてそうでしょうか。どうやら私は彼女の構成要素の一つに過ぎない「映画好き」をあまりに大きく捉えてしまったようです。
 では、もうひとつの大きな設定「IQ400」という側を大きく捉えて「特別系を受け入れた」という現実を検証してみましょう。

 IQ400。こう考えてみてはどうでしょうか。彼女は高機能性遺伝子障害症も、美緒や十六夜が何者であるかも理解した、と。
 正直なところ美緒が何者であるかを理解した、というのは無理があるように思いますが、高機能性遺伝子障害症ははっきりと理解の範疇にあるはずです。麗ちゃんが活躍している時代から見て十年前であるリスティシナリオを見るに、その時点でその病気に関してはかなり研究が進んでいたようです。ものが遺伝子障害である以上、十年で治療法が確立されたとそう脳天気に断ずるわけにはいきませんが、それでも十年で一歩も進まないと考えるよりは無理が少ないでしょう。一般の人間である彼女がそれに関する資料を入手できるかどうかは難しいところですが、入手先が耕介や愛さんであるとするならば、入手は容易でしょう。知佳本人からもらったという可能性すらあります。

 では、「映画好き」と「IQ400」この二つを組み合わせて考えてみましょう。つまり、私は麗ちゃんが特別系を受け入れたという事実をこう考えます。
 まず、何らかのきっかけでそのことを告白された。その時点ではそういうものだ、として受け入れた。「はややや、映画みたいなこと、実際にあるんですね」なんて感想も持ったかもしれません。そして後々になってから、どこか別のところで「高機能性遺伝子障害症」という病名を聞いた。
「知佳さんの病気なんですねー」
 ……麗ちゃんの知識欲あるいは好奇心がどの程度のレベルにあるかは分かりませんが、それでもこれはなかなか説得力のある話に感じます。

 さてさざなみ寮の面々は誰もが美緒や知佳のことを「そういうもの」として受け入れてきたわけですが、それに比べ(この仮説に立つと)、麗ちゃんはそれが何であるのかを探求しようとしている、ということになります。
 正直なところ、どちらがより知佳や美緒にとって好ましく感じる態度であるか、私には分かりません。そして、高機能性遺伝子障害症が何であるか理解したところで知佳に対する態度が変わるとも思いづらい(もともと麗ちゃんは知佳に好意的であったと考えます)。ですが、探求しようという態度、そしてそういう意味で理解できるという自信。私は大野木麗をそう考えます。

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 さて、次章は麗ちゃんからほんの少し離れて、彼女以上に謎の人物「さとみ」がどのような人物であるかに迫ってみたいと思います。
 ……とはいえこのさとみなる人物、台詞はゼロ、名字すら設定されていない。ですが麗ちゃんの相方として非常に重要な人物であると考えられるので、設定しないわけにはいかない。……はっきりと言っておきます、彼女は葩稍あづさの創作したオリジナルキャラになります(もちろん本編で言われていることは踏襲しますが)。
 というわけで、次回をこうご期待。

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