Phantom(PHANTOM OF INFERNO)


*私は、この作品について他の評論などを一切読んでおりません。また、テキストについても記憶を頼りに書いております。プレイに支障のない程度ですがネタバレの部分もあります。あらかじめご了承下さい。なお、この文中に出てくる固有名詞は各社の登録商標です。

*概要
 主人公は、中学校を卒業したばかりの日本の学生。両親にプレゼントされたアメリカ旅行の最中、犯罪の現場を目撃してしまい、組織にさらわれ洗脳され、記憶をなくし暗殺者となる。やがて彼は組織随一の腕前になり……。

 例えばKanonで「あれはご都合主義だ」「いやあれでいいんだ」という話題があった。極端に単純化して言えば、その議論は「最後の奇跡は納得いくか?」という点に集約できると思う。
 私は最後の奇跡には納得できない派である。だからといってKanonの価値を貶めるものではない。もう少しテーマと内容を絞って小説にすれば、折に触れて思い出す作品の一つにはなりえたと思う(私にとってこれは最上級のほめ言葉のつもりである)。
 ところで、そこで「リアルだ」「いやリアルではない」という話題があった。しかし、このファントムをプレイすれば、そんなことには意味がないことに気付くだろう。作品におけるリアルというのは他でもない。そこに起きたことに、読者が納得できたということである。Kanonについてはその奇跡について納得できた人もいれば納得できなかった人もいた。そしてそれがたまたま目に付きやすいから議論になった。ただそれだけのことなんだろう。
 そしてファントムはリアルだと思う。たとえ日本の学校で、洗脳された少年少女がライフルで銃撃戦をやるにしても。そこまでの積み上げで、そのシーンに納得がいくからだ。
 その理由に、たぶん銃のディテールをあげる人がいると思う。しかしそんなことはどうでもいい。作品が、1割のウソと9割の現実であるならば、この作品はまさにそれである。主人公は、犯罪組織に拾われて洗脳され、暗殺者になる。それだけがウソであり、それに付随するもの以外全てが現実に基づく。弾が当たれば人は死ぬ。人は誰しも自分の行動原理に基づき行動する。
 神は細部に宿りたもうらしいが、細部だけで神は生まれない。主人公はどうしようもない現実の中で、まさにそれしかない選択肢を選んで生きていく。突きつけられる選択肢は、この状況ではそれしかないもの達ばかりで、どれを選んでも自分の選択に納得がいく。そしてそれこそがゲームとしてのリアルだ。
 ギャルゲーによくある「どうして〜しないんだ!」的なもどかしさがそこにはない。選びたい選択肢がないということがほとんどない。それは、私をストーリーに没入させているからかもしれないし、その選択肢へとシナリオが精神を誘導しているからかもしれない。
 結果として、ファントムはストーリーとしてのリアル、ゲームとしてのリアル、2つの点において、非常に高い水準で満たしているのだ。繰り返し言うが、それは細部へのこだわりとか死んだ人は生き返らないとかそういう、現実をなぞった点ではない。現実をなぞるだけなら誰にだってできる。かっこつきの「現実」であること、言い換えれば「ああ、なるほどなあ」と納得させること、ストーリーの力でそうさせること、それこそが「リアル」だ。
 誰だって、釣り船屋の息子がボクシングで日本チャンピオンになったと言ったって「リアル」に感じはしない。けれど「はじめの一歩」がボクシング漫画としてリアルなのは、そこに積み重なるものに納得がいくからだ。いじめられていたという過去があるから、強くなりたいという動機にも納得がいく。不器用な性格も引っ込み思案にも納得がいく。だからこそ努力することにも納得がいく。そして努力したからこそ勝つことにも納得がいく。そういうことだ。
 そう。ファントムにおける最後のリアル、動機付けである。「登場人物が生き生きしている」と大ざっぱに言うが、これはその登場人物の行動の動機付けに、納得がいったということに他ならない。例えば、ホワイトアウトで、ダムの職員が、ランボーなみの大活躍をするが、それは自分の責任で同僚を死に至らしめたりという負い目があるからだ。だからこそ必死な彼、逃げない彼に納得がいく。ファントムにおいては、ヒロイン達は、自分の存在理由や、野心や、愛のために、リアルに行動する。その動機付けに納得がいくからこそ、登場人物が生き生きしているように思える。
 この作品については、たとえば決まったセリフ回し(死んだと思っていたヒロインに再会し、「殺してくれ」と主人公が言う。それに対してヒロインが「この世界が、無限の地獄じゃないとしたら、それはあなたが生きているからよ」と言うのだ。くそう! 限られた紙面では言い切ることができない! これ読んでも何のことかわからないと思うけど、プレイしたらすごく決まっているのだ)とか、言いたいことがたくさんある。その中で、今回は「リアル」をキーワードに評論を試みた、が。たぶん中心となることは説明できたにしても、この作品の良さの5割も説明できてない。
 徳川のジッチャン流に言うなら、
「(泣かせ全盛の現在に)リアルを目指して何が悪い?
地上最リアルのゲームがしたいか〜!?
ワシもじゃ、ワシもじゃみんな!」
そんな感じ。

以下はヒロインごとのコメントです。

・アイン(エレン)
 彼女が、私の中ではNo.1。全てをアインという名に託して閉じこめざるを得ない繊細さ、そして一途さと健気さに支えられた強さ。その2つが彼女の中でせめぎ合う様がたまらない。ちなみに私のファーストプレイは彼女の故郷を探すものだったが、今でもそれがベストエンドだと信じて疑わない。まあ、自分の思うようにプレイした結果だったというのもあるけど。
お気に入りのセリフ「この世界が、無限の地獄じゃないとしたら、それはあなたが生きているからよ」

・キャル
 スラムに鍛えられたしたたかさと、子供らしい一途さのアンビバレンツ。その子供らしい無邪気さ(=凶器・狂気)は、もろくて救ってあげたくなります。でも、アインよりも彼女をとるのはどうかなあ。
お気に入りのセリフ(これはモノローグですが)「そんなことをするのは、負け犬だけだ」

・クロウディア
 彼女だけ毛色が違います。彼女だけは大人なのです。自分の意志で生き、自分の意志で生き方をつかみ取っているのです。だからこそ捨ててしまうものもあるわけで。その哀れさが悲しい。彼女のストーリーだけ、ゼクスからノインまで(なんか妙な取り合わせだ)の素顔が見られます。
お気に入りのセリフ「だれもが恐れるケダモノになりなさい」

・美緒
 最初、彼女が何のため出てきたのかわかりませんでした。彼女は、懐かしい故郷、失ってしまった過去、そうわかった今でも、他のヒロインには見劣りしてしまうなあ。相対的なものだけど。萌えを排したこのゲームでは、萌えキャラ的な彼女は弱まってしまうのかもしれません。
お気に入りのセリフ「彼が、好きなんです」


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