難解。それだけは間違いない。
……とはいえこのゲーム、実を言うと『2nd LOVE』だけを見ていても全く理解できません。理解できるはずがありません。だってなんにも説明されてないのだから。鈴井耕一が絵を描くと死者も期限つきサイズ制限つきで生き返るのか? 結局、死んだのは誰で生きているのは誰なんだ? 死者である主人公達が彼の描いた絵の中で生きているのなら、他の登場人物はどこで生きているんだ? なんにも分かりません。いや私が分からないだけかもしれませんが、少なくともプレイヤーに理解される努力をしているようには見えません。
ですが、このゲームには先があります。そう、『3th LOVE』。これが後ろにくっついたことによってこのゲームの評価は途端に高くなりました。「やられた」。それが感想です。
このゲームはおそらく『3th LOVE』の主人公であるところの浅野静の視点に立つべきでしょう。そして彼女が何故こんな物語を描いたかを考えることによって、真に面白い物語となります。この視点に立つことは誰にでも出来ることではないと思いますが(たまたま私が小説を描く人だから容易いのです。これが音楽だ絵画だという話になると、きっと私は困ります)。
ともあれ、彼女の視点に立つと何が見えるでしょうか?
たとえば華月光。『2nd LOVE』のメインヒロインは、明らかに彼女です。すなわち、浅野静は弟が「ショートカットだった頃のあの人」と幸せになることを望んでいる、と考えられます……が。ここで彼女は妙な設定をしました。華月光は死んでいるのです。ここに私は浅野静の屈折した心理を感じます。加えて言うなら、「ショートカットだった頃のあの人」という限定した言い方にも浅野静の穏やかならざる心中を読みとることが可能でしょう。つまり、弟が幸せになるべきその相手、それはもはやどこにもいない。
……とまあ一事が万事、こんな感じ。ほぼ全ての設定に浅野静の屈折した心理を読みとれます。どこまで作者が意図したことかは分かりませんが、はっきり言って怖いです。一人の人物を設定して、その人ならどのような物語を創るか、無意識のレベルまで彼女を見据えて物語を創らせる。謹んで賛辞の言葉を捧げます。
「絶対既知外だよ、この作者」
この作者、もうちょっと自分で言いたいことを整理してから充分な時間をかけて作れば、『YU-NO』を越えるものを作れる人なんじゃないかとも思います。次回作に大期待。
とはいえ、いたずらに難解なのと『2nd LOVE』での説明不足、そして途中がどうにも退屈なので点数としては8どまりですね。
ちなみにこのゲームに関しては、正式評を現在書いています。