みさおとは何か


 はじめに断っておきます。私はこのストーリーに関するネット上の議論に加わったことはありません。はたから見たこともありません。ネット外では友人に「この話、どう解釈した?」のような質問して簡単な答をもらったことはありますが、その程度で議論とは言えないでしょう。ともかく、他の人がどのような風に考えているのかはよく知りません。ですから以下の論理がどこかで誰かが言っていたものと同一だとしても、それは必然ということでお片づけ願いたい(同じものを見て同じ結論を導き出す、それは偶然ではなく必然です)。

 まず、「消える」とは何か。「ふーん、消えちゃうんだ。SFだね」のひとことで済ませてしまってる人も多い気がしますが、そういう人はここから先を読まない方がいいと思います。これが何であるか考えて、自分なりに結論を出した上で読んでください。もっともこんな小難しい文章をここまで読んだ人は、「こういう話が好きな人」=「こういうことについて考えるのが好きな人」だと思いますが。

 さて私の考える大前提は、このゲーム全体の最初から最後まで、みさおに関すること以外は浩平の妄想である、ということです。つまり浩平はみさおを失い、それに対する無力感などからみずからの妄想の中に閉じこもってしまった。しかしその妄想も長くは続かず、浩平は現実の世界に帰り妄想の住人は浩平を忘れてしまう。すなわちヒロインの女の子達との再会を果たすとは、浩平が妄想の世界へ帰ってきたということを示している、と考えます。

 この前提に立った場合、大きな疑問が噴出するでしょう。
妄想に戻ってくるのがハッピーエンドか?」これに対する返答としてまず言いたいことは、誰があのエンドをハッピーエンドだと規定したのですか? 第二に、浩平にとってでなくヒロイン達にとってのハッピーエンドだと考えたらどうでしょう。これは私の持論ですが、「物語の中でハッピーエンドになることを望まなかった登場人物には、ハッピーエンドを迎えさせてはならない」。ヒロイン達は浩平から色々なことを教えてもらい、前に進もうとしました。一番分かりやすいのがみさき先輩と茜ですね。しかし浩平は自分が前に向かおうとは最後まで一度も思いませんでした。自分が消えることを察した浩平、その時彼のとった行動は「あきらめ」です。すなわち私は、浩平にはハッピーエンドを迎える資格がないと考えます。

 では話が前後しますが、この前提を検証してみましょう。
 さて、ひとくちに人間が消えると言いますが、果たして一人の人間が、あらゆる人の記憶はおろか、あらゆる記録から「初めからいなかった」ことになるということなど起こりうるでしょうか? もちろん起こりません。そしてこのゲーム、あまりに世界が異常すぎると思いませんか? 教室に繭が混じっていて、だけど先生達は誰も気にしない。自分の学校はどうした詩子。みさき先輩のことは噂になってるのに澪のことは全く噂になってない。こんな矛盾だらけの世界が、なぜ存在しうるのでしょうか。答は簡単「ゲームだから」。これを言ってしまうと普通はそこから議論が進まなくなるのですが、このゲームの場合は別。フィクションだから、何でもあり=浩平の妄想だから、何でもあり。

 憂鬱な夢において、浩平に語りかける者。それがみさおだということに、おそらく議論の余地はないでしょう。“浩平と永遠の盟約を交わした者”と言い換えるべきでしょうか。そしてその者の容姿は、明らかに幼い頃の長森です。つまりこうです。
 主人公は、みさおを失った。彼はその深い悲しみから逃れるため、みさおの代わりとなる長森瑞佳という人物を創り出した。そして世界を創り出した。みずからの頭の中に。

 浩平と長森の出会いのシーンを想像してください。浩平は「僕は一生泣きながら暮らすんだ」のようなことを考えていました。そして、そこに長森が窓ガラスに向かって石を投げます。その石が浩平の頭に当たり、怒った彼は「明日からお前のこといじめてやる!」などと言い、次の日からあの手この手で長森をいじめ始めます。この明るさを見ると、あまりに変わり身が早いという印象を受けないでしょうか? ここから私は、この浩平は彼自身が考える「かくありたい自分」の姿である、と考えます。みさおの代わりとなる人物が現れたら、きっとこんなに明るく生きていくことが出来るんだ。こんなに明るい日常を過ごしていくことが出来るんだ。

 かように、私はこのゲームの主な舞台は浩平の妄想の中であり、そして浩平がみさおを失った悲しみを紛らわすために作り上げた空想上の人物が、今度は逆に浩平を縛り付ける枷となった、と考えます。つまり、こう。
 永遠の盟約はみさおと交わしたのでなく、長森やみさき先輩など、このゲームのヒロイン達との間に交わされたものである、ということです。浩平はヒロイン達と生き続ける。その世界は永遠に変わらない世界。空想の世界は、永遠に変わることはありません。
 みさおと同じ容姿をした幼い頃の長森は、こう言います。「永遠は、あるよ……ここにあるよ……」長森がいるところ、そこが永遠の世界です。


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